住宅再建(6) 遅すぎる住宅再建による変化
公開日:
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最終更新日:2016/04/04
住宅再建, 震災からの復旧・復興
6. 市主導型の防災集団移転事業に参加し住宅建設
前回に引き続き、もう一つの行政主導型の住宅再建の選択として、市主導型の防災集団移転事業について考察します。
被災者自ら組織を形成し、地主と交渉し安全な土地を確保しての防災集団移転事業と異なり、住民が自ら動くことなく、行政が計画提示した防災集団移転事業に対し応募するので楽な選択になります。
その反面、
1)災害公営住宅同様にアンケートなどによって、自主的再建世帯を除く希望世帯数を把握してからのスタートなので再建が遅くなる。
2)極力、地元に近いところを希望しようにも、行政の計画した場所から選択するしかない。
3)条件が良くて希望が殺到する宅地においては、抽選になってしまい希望通りにいかない可能性がある。
4)住民主導型とは異なり、隣近所に誰がくるのかわからない。
5)住民主導型の場合、最大広さ100坪の土地を確保しやすいが、行政主導型の場合、100坪以未満の土地が多く、与えられた土地で再建しなければならない。
楽な分、デメリットもそれなりに生じてきます。
【引き渡し待ちの防災集団移転事業の宅地】
遅すぎる住宅再建による変化
大震災から5年が過ぎて、やっと被災者の約半分の方々が生活再建を果たしましたが、やはり、あまりにも遅すぎます。
一言で5年と言いますが、中学卒業生が二十歳になるのです。
学校の体育館など、本来は生活するようなところではない公共施設での長期避難生活、その後の狭い仮設住宅での生活が続いているのです。
行政も必死で被災者の生活再建の後押ししようと、アンケートなどを行い、希望する地区に希望する生活再建策(防災集団移転事業や災害公営住宅の建設)を計画し実施に移してきました。
実行に移したからと言ってすぐに完成するものではありません。
その間に被災者の様々な変化が生じて、当初の計画との差異が生じてきているのです。
ある被災者は、防災集団移転事業に参加し、地元での再建を目指そうとするも、市からの提示された計画自体が遅すぎ、苦渋の決断にて、地元を離れての生活再建に切り替えました。
被災地・地元にこだわらなければ、土地は沢山あるのです。
被災地・地元にこだわらなければ、賃貸住宅が沢山あるのです。
被災地・地元にこだわらなければ、建売住宅やマンションだって沢山あるのです。
結果的に被災地の人口流出につながってしまっているのです。
それも、地元への愛着が薄い若い世帯の比率が高いと言われています。
ある被災者は、当初は、防災集団移転事業に参加し、自力で住宅を建設を予定するも、高齢世帯においては、体調変化、資金力、余生の時間などのハード的、ソフト的の変化によって、自力住宅建設を諦め、災害公営住宅(賃貸)に切り替えました。
その結果、申し込みの変更や申し込み辞退が生じ、災害公営住宅においての空き部屋は、まだ少ないようですが、防災集団移転事業への参加への辞退が急増し、せっかく造成した土地の空き地が問題になっています。
途中で計画変更にて縮小できたところもあるようですが、止めることができずに空き地のための造成を行ったところもあるようです。
空き地は緑地(公園)などに変更されたり、二次募集をかけたりしていますがどうなることやら・・・。
最終的には、被災者以外への土地の売却(賃貸)や、Uターン、Iターン向けに売却(賃貸)のセールスしたりと、本来の被災者の生活再建の目的から、かけ離れた政策になっていきそうです。
人口流出対策としてはそれも必要かと思いますが、もっと生活再建が早ければ・・・。
仕方なく、苦渋の決断で、地元を離れた被災者にとっては複雑な心境になることは言うまでもありません。
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