震災遺構 南三陸町防災対策庁舎(1)
公開日:
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最終更新日:2015/03/25
震災からの復旧・復興, 震災遺構
『6mの津浪がきます。避難してください!』
南三陸町の職員で危機管理課に所属し、防災放送担当だった遠藤美希さんが、大津波が来襲する直前まで、住民に高台への避難を呼びかけ続け、そのおかげで多くの住民の命が救われました。
しかし、予想を大きく上回る大津波の襲来によって、美希さん始め、多くの町職員や避難してきた住民が犠牲になってしまった防災対策庁舎です。
この防災対策庁舎を震災遺構として保存するか否かで、町は二分しているのです。
『見るもの嫌!』
遺族には拒絶したくなるような複雑な思いがあるのだと思います。
私なりに考えを整理してみたいと思います。
助かった職員と助からなかった職員の存在
当時、町長をはじめ、職員30名ほどが庁舎に詰めていたが、町長や職員11名が屋上のアンテナなどにしがみつき助かったが、遠藤美希さんや多くの職員や避難した住民が犠牲になりました。
避難した屋上を超える津浪が襲来したのです。
助かった職員がいる中で、助からなかった職員の遺族の無念さは計り知れません。
町の仕事と拘束
町職員の仕事は住民への奉仕がメインであり、その仕事中での震災ですから、震災直後は当然ながら住民の生命を守ることを優先になると思います。
その仕事場が防災対策庁舎だったのですから、職員としては、その場を放棄して避難することは困難だったと思います。
しかし、遺族としては、そのような仕事や場所を放棄してでも、住民と一緒に安全な高台に避難してもらいたかった・・・。
現実、ある職員遺族が町長に対し、その場に留めさせたのが原因で町職員など43名が犠牲になったと、業務上過失致死容疑で警察に告訴状を提出しているそうです。
その場所への拘束力は外部からだけとは限らず、自らの使命感からも持ってしまう訳ですが、遺族からすれば、その舞台になってしまった防災対策庁舎の拒絶反応は計り知れません。
行政に対する不満
震災後、防災対策庁舎は、震災モニュメント的存在になり、町内外から多くが弔問に訪れ、保存を求める声が大きくなりましたが、遺族は早期解体を望んでいて、町に陳情していました。
そのような中、2013年9月、その防災対策庁舎で助かった町長が、復興の妨げになる、保存は荷が重すぎる(財政面)などの理由から、苦渋の決断として、防災対策庁舎の解体を決め、町議会も遺族からの『早期解体』の陳情を採択し、その年の11月には解体前に、防災対策庁舎で慰霊祭を行ったのです。
しかし、その直後に県から横やりが入ったのです。
国(復興庁)から遺構保存に対する支援策が提示され、解体費用を捻出する県が『待った!』をかけ、宮城県震災遺構有識者会議を設立し、防災対策庁舎が貴重な遺構候補になったのです。
解体決定したにも見送られ、その後、苦渋の決断した町長も、復興計画が保存しても妨げにならなかったり、国からの財政支援などから、態度も曖昧なまま、時間が経過いており、遺族の不満は高まるばかりです。
更に、県は、広島の原爆ドームを参考にしたとかかで、震災から20年後の2031年まで『県有化』を投げかけ、基本的にその間は棚上げ状態に。
保存を望む住民からは『県有化』の受け入れを求める請願書が提出されるなど、早期解体を望む遺族には、計り知れない怒りが生じている状況に陥っています。
(つづく)
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