震災遺構 気仙沼市のケース
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最終更新日:2015/03/23
震災からの復旧・復興, 震災遺構
気仙沼市の震災遺構としては、私の目の前に存在している被災した旧気仙沼向洋高校の校舎にすんなり決まりそうです。
気仙沼市の震災遺構として、当初、鹿折地区に打ち上げられた巻き網漁船 『第18共徳丸(330トン)』が有望とされ、市長も保存に向けて調整・交渉を進めていました。
しかし、被災地・被災者にとっては、『見たくない』『存在の違和感』など、考えるスパンが、復旧・生活再建を目指す『今』と、震災を思い出してしまう『過去の排除』が優先されての判断だと思うのです。
しかし、長いスパンで考えれば、震災遺構の存在によって、
◯鎮魂・・・犠牲者を悼み、悲劇を繰り返さない、震災を風化させない。
◯継承・・・津波の大きさ、破壊力を見える形で残し、次世代に継承し防災・減災を促す。
という震災遺構には将来に向けて重要な役割を果たすことも、重々、承知しています。
被災地・被災者にとって、その役割は承知していたとしても、やはり、防潮堤問題と同様に、短いスパンでの考えが優先され、結果的に拒絶してしまうという図式です。
『第18共徳丸』の船主さんは、被災者の感情等を考え、早期に解体の決意を示していましたが、なんとか保存を進めたい市は、市民に保存是非に関するアンケートを実施しました。
結果は、
『約7割の市民が保存の必要性はない』
となり、市としても諦めざえるを得ず、解体に至りました。
多分ですが、被災地以外の第三者にアンケートを行ったとしたら、全然別な結果になったと思います。
『第18共徳丸』が存在していた頃は、多くの見物人が来訪し、遺構的役割を果たし、経済効果にも貢献した様です。
解体によって、近くの仮設商店街のお客さんが激減したとの話しを聞きました。
さて、それでは、なぜ、被災した旧気仙沼向洋高校の校舎が震災遺構になろうとしているのか?
拒絶反応、保存不要にはならなかったのか?
一番の要因は、旧気仙沼向洋高校の校舎で津波の犠牲者が一人もいなかったことだと思います。
当時、高校には生徒約160名、先生や耐震補強工事関係者などいましたが、生徒は高台に非難し、一部先生や工事関係者など約50人が屋上に避難して無事だったのです。
従って、拒絶的な感情は少なく、逆に漁業の町にとって、気仙沼向洋高校(元気仙沼水産高校)は特別な存在であり、ここ階上地区の住民が、まちづくり協議会を立ちあげ、旧気仙沼向洋高校の校舎を震災遺構とし、それを防災と地域振興の拠点として位置づけた計画提言書を完成させ、官民一体で保存に向けて進行しているのです。
旧気仙沼向洋高校の校舎は、ほぼ震災当時のまま残されており、3階の教室に流れてきて突っ込んできた車が横転していたり、校舎3階の壁面に冷凍工場がぶつかり、えぐり取られた生々しい姿が残っており、津波の高さや破壊力を発信するには十分です。
課題は2つの校舎が存在し、遺構の規模が大きいので、費用の問題と関連し、どこまで残し、どのように活かすか?
があります。
さて、すんなり決まりそうな気仙沼市とは異なり、隣町の南三陸町では、震災であまりにも有名になった『防災対策庁舎』を、震災遺構としての保存に対し、県まで関与して複雑な状況に陥っています。
(つづく)
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