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震災遺構 南三陸町防災対策庁舎(3)

公開日: : 最終更新日:2015/03/30 震災からの復旧・復興, 震災遺構

石巻市大川小学校の保存の議論

南三陸町の防災対策庁舎を震災遺構として残すか否かの議論の参考になるのが、石巻市の大川小学校の保存に関する動きです。

大川小学校は東日本大震災の大津波によって、学校管理下の児童と教員84名が犠牲になってしまいました。
真実をめぐり、遺族と市側(教育委員会)が衝突し、遺族が市を訴えて裁判沙汰になっていることでも有名です。

そのような状況の中、当時、津浪に流されながらも奇跡的に助かった大川小学校の児童が高校生になり、その卒業生らが大川小学校の保存を訴えて動いているのです。

先日(2015年3月)の仙台で開催された『国際防災会議』の市民向けフォーラムの中で、卒業生らが大川小学校の保存について意見を語ったことがニュースで流れました。

『大川小学校の校舎を残したい』

その行動自体にびっくりしますが、もっと共鳴した意見は、

『まだ大川小の校舎を壊してほしいと思っている人がたくさんいます。
私は絶対に多数決で大川小の問題を決めてはいけないと、とても強く思っています。
壊してほしい人と残したい人で、もっと意見を交わし合い、全員が納得できる方法にするためにも、私たちはこれからも地域の方々と話し合っていきたいと思います。
否定しない。
強制しない。
丁寧に向き合う。
この3つを私は強く心がけ、私たちの母校を残したい思いをこれからも伝え続けます』

すばらしいと思いませんか?

諸般の事情により、大川小学校の校舎は宮城県(石巻市)の震災遺構の候補にもなっていません。

しかし、
実際に大川地区の復興協議会において、卒業生らは意見を延べ、大人たちはしっかり耳を傾け、また遺族の解体賛成派も意見を出し合い、結果的に解体派も保存派も皆が納得できるまで話し合わなければいけないという強い思いが伝わる内容となっていた。
と、ニュースは締めくっていました。

住民不在の議論から住民主導の議論へ

これまでの、南三陸町の防災対策庁舎の保存の議論の経緯をみると、県(震災遺構有識者会議)、町、議会の議論だけが目立ち、保存賛成派、解体賛成派のどちらの住民においても、住民不在の議論と思っている方が多いようだと、地元の新聞で紹介されている始末です。

最近になって、町長同席の上、宮城県知事と町職員遺族との意見交換会を行う予定、更には町民を対象とした意見公募(パブリックコメント)を実施することも明らかにしました。
町長は、意見交換会やパブリックコメントの内容を踏まえて、『できるだけ早い時期に最終的な判断をし県に回答したい』と語っているそうです。

しかし、このような動きがあったとしても、大川小学校の地区とは異なり、賛成派、反対派、老若男女が一同に介して意見を出し合い、住民として納得できる結論をまとめる、というプロセスが欠落しているように思えてなりません。

前述しましたが、意見の根底には考えるスパンが異なり、解体派は今と過去(拒絶反応)が中心の考え方であり、保存派は将来を見据えた考えですから、その中で合意形成をまとめ上げるのは簡単なことではないと思います。

しかし、賛成・反対、0か1、◯か✕、のどちらかの決定ではなく、それぞれの意見をも尊重し、中立、0.5、△、的な合意形成にならないものか?と思えてなりません。

隣町の被災者・遺族の立場で、勝手ではありますが、私の意見を提起したいと思います。

(つづく)

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